2008年1月29日火曜日

前世の自分と義父の来訪

 最近、立て続けにちょっと不思議な体験をした。
 その前に、ひとつ質問があります。
 「あなたは、前世の自分に会ったこと、ありますか?」

 わけのわからんことを言っているな、と思われることは覚悟のうえで告白するのだが、

 僕は数日前、前世の自分を見た。もちろん初めてのことだけど。

 明け方近くの夢の中に突然、男性が表れた。どんどん近づき、その顔がアップになる。歳の頃は60歳代といったところだろう。
 「誰だろう」と思いながらじっくりと顔を見てみるが、まったく思い当たらない。向こうは僕が見ていることにはまったく気づいていないようだ。
 見ている映像がカメラがゆっくりとなめるような動きで右側に動いていく。すると、右隅からその映像の中に50歳代半ばから60歳代前半ぐらいの女性が表れてきた。

 その女性の顔がはっきりと見えた瞬間、僕は
 「あっ」と思わず声をあげてしまった。
 そこにいるのは僕自身だったからだ。
 性別も年齢も、もちろん姿形も今の僕とはまったく違うけど、100%間違いなく僕自身だということがわかった。
 女性は隣の男性と何か話しながら時折おかしそうに笑っている。でも何を話しているのか無声映画のようにこちらにはまったく聞こえない。
 オダノブナガ―とか、サカモトリョーマーとかではなく、現世のすぐ前ぐらいの僕の前世は、「赤いカーデガンを羽織ったどこにでもいそうな普通の日本人のおばさん」だった。
 自分の前世に憧れや希望を抱くのはそれぞれ自由だが、現実とはそういうものなのだ、きっと。


 もうひとつは、その翌日に起こった。
 息子とふたりで夕食に出かけることになり、ふたりだけという機会は滅多にないので、どこにしようか考えた末、一昨年他界した義父と結婚したばかりの頃になんどかふたりで行ったことのあるレストランを電車に乗って訪ねてみることにした。
 義父は、初孫だったこともあって息子を大変かわいがってくれた。ドライブや大好きな野球観戦など暇さえあればふたりであちこちに出かけていた。
 息子もそんな義父のことが大好きだったようで、思い出話の中には主役級の割合で登場する。
 僕も嫁さんの父親としてもそうだが、男としても尊敬できる人だと思っていた。
 特に、「人の悪口を言わない」というところが好きだった。
 信用できる「いい男」の基準は、人のことをああだこうだと言わない男だと僕は思う。そう確信できるようになったのは義父のおかげでもある。

 店は昔のままの場所に残っていたが、その夜は僕らしか客はいなかった。
 しばらく息子と義父のことを話していると、気持ちがサワサワしだした。
 はっきり見えるような能力は僕にはないが、何かが、誰かがいる感覚、それが良きものか悪しきものかぐらいの判断はささやかながら感じることができる。

 僕は「義父が近くにいる」と感じた。
 息子に「じいちゃんが来てるみたいだよ」と言うと、ジュースを飲みながら「ほんとに!?」と言って笑った。
 そうやって息子と話していると、突然、ポロポロと涙が出てきた。わけがわからなかったけど自分でも泣きたいような気もした。
 息子からすると大丈夫なのって感じかもしれないが、何もいわずにもくもくと食べている。まあ、変だと思われても少々のことは大目に見てもらうしかない。あえて親子になったのだから。
 他界した人は懐かしい人の口上にのぼることを喜ぶという。良き思い出話ならなおのことである。
 普段は少々多めに飲もうが、そんなにひどい酔い方はしないはずなのにその夜は息子を相手にかなりひどく酔ってしまった。
 義父によっぽどうれしいことでもあったのだろう、これも酒好きの義父の分まで飲まされたためと自分では解釈した。
 帰るのにも苦労するほどだったのに、僕は家に帰ってから汚れたシャツを洗おうと数年ぶりに洗濯をしていた。
 綺麗好きの義父はいつも自分で洗濯をしていたことを後で思い出したが、そのときは酔っていて思い出すどころじゃなかった。しばらくすると洗濯機がガタゴトいうので故障かなと思ってフタを開けてみた。 
 すると、シャツなどの洗濯物の上で、僕の携帯電話がクルクルと回っていた。
 昨年の夏にプールに漬けてしまい、半年もたたずにまたも水である。やれやれと思いながらも、何か厄でも洗い流してくれたのだろうと思い、スッとあきらめることにした。

 数日後、嫁さんの弟に会った。
「この間はお義父さんと一緒に飲んだんだ。息子とふたりでどうやって帰ったのかよく覚えてないぐらいベロベロに酔っちゃってさー」という僕の話を人の好い義弟は半笑いのような表情で聞いてくれていた。

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