「二度とない人生だから」
地下鉄に乗っていると、膝の上に置いてある鞄の上に、小さな虫が飛んできました。
小指の先ほどもない小さなカナブンのような虫でした。
地下鉄の中までどうやって来たの?と思わず、尋ねていました。
寡黙な虫は、誰かの鞄や肩の上にそっと乗っかって、一度乗ってみたかった地下鉄に飛び乗ったのかもしれません。
「二度ない人生(虫生)」なのだから、やりたかったことを思いきってやってみて、楽しみたかったのかなと思ったりしました。
でも、ふと私と一緒で、虫さんもお日様が大好きで、そろそろ、その姿を見たいんじゃないかなと思ったので、
「おとなしく鞄の上に乗っていたら、地上まで私が連れて行くよ。まだ遊びたければ飛んでいけばいいよ」と心の中で虫さんにささやきました。
すると虫さんはぴたりと動くのをやめて、おとなしくなりました。
地下鉄の中で20分ほど時が過ぎ、東京駅に着くまで、虫さんはじっと鞄の同じ場所にとまっていました。
エスカレータに乗り、出入り口まで階段を昇り、地上に出た時も、虫さんはやはり鞄にしっかりとくっついてそこにいました。
お日様があふれんばかりにあたりを照らしていました。
夏の光が、あらゆるものの影をくっきりと黒く刻み込んでいました。
虫さん、今回の冒険はこれで一応、終了です。
次はどんな旅が待っていてくれるんでしょうね。
皇居の周りの緑がすぐそこに見える街路樹の葉の上に私は虫さんをそっと放ちました。
文中に使わせいただいた「二度とない人生」のフレーズは、坂村真民(しんみん)さんの詩のタイトルからお借りしました。
この詩の中の大好きなフレーズである
「一匹のこおろぎでも ふみころさないように こころしてゆこう どんなにか よろこびことだろう」
を思い出したからです。
坂村真民さの「二度とない人生だから」をおしまいにご紹介します。
「二度とない人生だから」
二度とない人生だから
一輪の花にも
無限の愛を
そそいでゆこう
一羽の鳥の声にも
無心の耳を
かたむけてゆこう
二度とない人生だから
一匹のこおろぎでも
ふみころさないように
こころしてゆこう
どんなにか
よろこぶことだろう
二度とない人生だから
一ぺんでも多く
便りをしよう
返事は必ず
書くことにしよう
二度とない人生だから
まず一番身近な者たちに
できるだけのことをしよう
貧しいけれど
こころ豊かに接してゆこう
二度とない人生だから
つゆくさのつゆにも
めぐりあいのふしぎを思い
足をとどめてみつめてゆこう
二度とない人生だから
のぼる日 しずむ日
まるい月 かけてゆく月
四季それぞれの
星々の光にふれて
わがこころを
あらいきよめてゆこう
二度とない人生だから
戦争のない世の
実現に努力し
そういう詩を
一遍でも多く
作ってゆこう
わたしが死んだら
あとをついでくれる
若い人たちのために
この大願を
書きつづけてゆこう
「さて、お待ちどおさま。虫さん、またどこかで逢いましょう」と心の中で虫さんにささやき、その場を後にしました。
すべてはつながっています。
すべては「ひとついのち」です。
「二度とない人生だから」、大いに歓んで、楽しんで、幸せに生きていくんだよ~!
3 件のコメント:
この世のものはすべて幻
現実などというものは存在しない
それが分かっていても尚、思うように生きる事ができない・・・
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