文藝春秋が発行する「はじめての文学シリーズ」の宮本輝と村上春樹を読んだ。
僕は日本人の作家の中で”短編の旗手”は誰かと問われたら迷わずこのふたりの名をあげる(もうひとり向田邦子も加えたい)。
もちろん、ふたりには長編にもすばらしい作品は多々あるが、短編には、普通に見る限りはひとまたぎで越えられそうな、なんてことのない地面の裂け目なんだけど、近くに行って下を覗いてみると底などまったく見えない暗く冷たい深淵な谷のような存在感がないとのちのち読み手の心に残らない。そんな谷を覗いてきたような読後感を長く持たせてくれてるのが僕にとってはこのふたりなのだ。
「はじめての文学シリーズ」に関して、ふたりを読み比べると宮本輝の”圧勝”である。
村上春樹に僕の好きな「午後の最後の芝生」が入っておらず、宮本輝には僕の好きな「トマトの話」と「五千回の生死」が収められていたという単純な理由からである。
このシリーズは若い人たちに読書の楽しみを知ってほしいという願いから発行されているらしいが、10代後半~20代前半の頃、しまリスのように時を忘れてこりこりと日々本を読みふけっていた懐かしき日々に僕を引き戻してくれた。
0 件のコメント:
コメントを投稿