2008年3月3日月曜日

プーチンという男

 ロシアで2日、大統領選が行われ、メドベージェフ副首相が第3代大統領に就任することが決まった。 
 このメドベージェフ氏を後継者に指名したプーチン現大統領は今後は首相に就任し、実質的に国家指導者として“院政”を敷くことになるらしい。
 石油、天然ガスなどのエネルギー戦略を武器に、ここ数年でロシア経済を立て直し、外交面でも再び大国の地位に押し上げた敏腕大統領・プーチンについては反対勢力を徹底して弾圧する強面の人物評が一般的だが、僕の中のプーチン大統領への認識を一変させられ、新たな人物像を築かされるきっかけになった一冊の本がある。

 その本は、元外務省事務官で現在は作家の佐藤優氏が書いた「野蛮人のテーブルマナー」である。
 佐藤氏は、外務省内部の問題で鈴木宗男氏との深い関係から背任容疑で逮捕され、現在も起訴休職中である。情報収集・分析能力に極めて優れた外交官で、「外務省のラスプーチン」と呼ばれたことでご存知の方もいらっしゃるかもしれない。
 この佐藤氏、外交官としても卓越した能力を持っているようだが、物書きとしての能力も抜群である。
 僕は彼の著書「国家の罠」「自壊する帝国」「日米開戦の真実」を堪能させてもらったほか、新聞ンフジサンケイ・ビジネスアイ連載中の「佐藤優の地球を斬る」も愛読している。
 本好きな者としてこうした才能にあふれた作家の登場を大いに歓迎しているが、こうした有為な人材が外務省から去ったことによる国家の損害の大きさを思うと手放しでは喜べない。

 著書「野蛮人のテーブルマナー」では衆議院議員の鈴木宗男氏との対談が掲載されており、この中でエリツィン大統領時代の首相を務めていたプーチン氏の情報を日本政府の指令で自ら集めた経験を持つ佐藤氏がプーチン氏の性格について述べているところがある。ここでその部分をそのまま記載する。

佐藤 ・・・・・「まずプーチンの性格の特徴は、人の悪口を言わない、物事をキチンと記憶する、気配りする、の3点でした。彼は当初、サンクトペテルブルグ市の助役をしていました。この時の市長のソプチャクとエリツィンとは仲が悪かった。だからソプチャクが市長選挙に敗れた後、プーチンは干されます。 
 それでもなんとかツテを頼って、大統領府に課長補佐の職を得た。これが始まりです。
 メキメキと頭角を現し、先ほどの能力を見込まれて、大統領監督局の幹部になる。政府内の不正や大統領に対する不穏な動きを監視する局です。プーチンはこの仕事を見事にこなした。でも、彼はその時に得たネタで自分の立場を良くしたり、他人を脅すようなマネは一切しなかった。
 次にエリツィンはプーチンをFSB(連邦保安庁)のトップに据えた。これは秘密警察です。実はエリツィンは秘密警察が大きらいなんです。ソ連末期に2度殺されかけていますからね。FSB長官をやっていた時に、プーチンにエリティン大統領から命令が来た。ソプチャクと縁を切れ、という内容でした。それに対してプーチンは、
 「私は過去にお世話になった人を裏切るようなことは絶対にできません」
 と答えた。エリツィンは同じ命令を何度もプーチンに対して行った。それでも、プーチンの返事はいつも同じでかつての上司を裏切らない。そこでエリツィンは、「次はこいつだ」となる。こいつなら権力を譲っても寝首をかかれることはない、と。

――プーチンが後継と指名されると、その時点でもう把握していたんですね。
佐藤 だから、後にプーチンが大統領になって、最初に出した大統領令は、初代大統領(エリツィン)に関しては、今後も一切の名誉が保全され、警護もつけ、最低限生活に必要なものをすべて保障するというものだった。プーチンもやがて権力を委譲する時が来ますから、自分の任期中に大統領をやった人間が引退した後にボロボロにならないようなシステムを作る必要があった。・・・・・・

 まさに今日、その「プーチンが権力を委譲する時が来た」のである。佐藤氏の人物評は極めて冷厳であり、時には辛辣過ぎる感もあるが、その佐藤氏にしてプーチンの人物評はこれほど高い。
 こんな男がロシア政府の国家指導者として君臨し、今後も裏から指揮していくのである。
 僕はこの文章を読んで、最初に佐藤氏があげた「人の悪口をいわない、物事をキチンと記憶する、気配りする」という点だけみても、我が国の今の国会議員の有り様と比べ、複雑な思いを抱かされた。
 信義を重んじるためにその地位さえ捨てる気概を持ち合わせた者は強い。仲間であればこれほど頼りになる者はいないが、相手であれば侮れず、まったく油断できない存在となる。
 こうした見地から現在の日本政府、外務省が対ロ戦略を組んでいて欲しいものだと思う。また、正面からがっちりと向かい合って互角に、いやそれ以上につきあいのできる度量ある大和の国の政治家の誕生を期待せずにはいられない。

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