幕末の頃、越後に住んでいた良寛和尚のお話をひとつ。
良寛さんは兄弟から息子(良寛さんにとっては甥(おい)っ子)が家業も継がずにブラブラして働かず、ろくでもない人間になっているので、こちらで機会をつくるから食事でもしながら素行を注意してもらえないかとお願いされる。
引き受けた良寛さんは数日後、甥っ子とふたりきりの食事の場に向かう。
良寛さんは食事の間、ひと言、二言世間話をしただけで説教めいたことはなんにも言わない。自分のことについてひと言でも何か言われたら徹底的に反論し、話次第では暴れてやろうと考えていた甥っ子は拍子抜けしてしまう。
そのまま食事を終え、良寛さんは
「ごちそうになりました。ありがとうございます」と入って席を立ってしまう。ますます拍子抜けした甥は玄関までなんとなく見送りについていく。
玄関で良寛さんはわらじの紐(ひも)を結んでいる。その時、甥は良寛さんが玄関の土間にじっとかがんだままポロポロと涙を落としていることに気がつくのである。
甥はその涙を見て「ああ、なんなんだ俺は。これから真人間になろう」と決意し、その後、そのように生きていった。
「誰も自分のことなどわかってくれない」とすさんだ気持でいる時に、なんにもいわなけど自分のことをただただ信じてくれる人に会えた甥っ子の気持ちはいかばかりか。僕も親に心配、迷惑をかけて生きてきたので、この話を電車で読みながら不覚にも涙がこぼれそうになった。
非常に貧しい暮らしをしながらも人を愛したことで知られる良寛さんらしい話である。
1 件のコメント:
こんにちは。
昨日、新潟県国上山に登山をし、良寛様の句にふれる機会がありました。
良寛様の検索をしていて、このブログにたどりました。
・・涙が出る想い 私も感じている今日です。
読ませていただき ありがとうございました。
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