2008年1月20日日曜日

カタマタさんは夜、空を飛ぶ

 友人のカタマタさんと金曜日に仕事の打ち合わせを終えて夕食を一緒にした。
 カタマタさんは今年で70歳になる。だから、僕が「友人」なんていうのはおこがましいのだが、本人がそう言ってくれるので、僕も「友人」と呼ばせていただくことにしている。

 よくいる70歳のおじいさんがどうなのか僕にはあまり見当がつかないが、カタマタさんは自分の自慢話や過去を振り返って「あの頃は良かったんだ」的な話をしたり聞いたりすることはあまり好きではないようだ。
 先月も退職者が集って第二の人生で社会貢献しようと謳うNPO組織の会議に人脈づくりのためだからと思い出席したが、上場企業のOBなどが多いから自分の現役時代の成功談義や自慢話など過去の話を延々とする人ばかりだったらしくすぐにイヤになって途中で会場を抜け出してきたらしい。

 実際、そんなに歳はとっていないのに、自分のことばかり話したがる人が増えているんだから、歳を取ってそうじゃない人なんて、そうそうたくさんいるわけないと思う。
 会場を抜け出してきたカタマタさんが、参加者の中で一番高齢だったという話を後から聞いて僕は大笑いしてしまった。
 まあ、そんな性格だから、カタマタさんは、いつも“今”に懸命に生きている。
 「若者だから今を生きている」んだと思っていたが、「今を生きているから若者なのだ」ということがカタマタさんに会って僕は知った。

 その行動力にもよく驚かされる。
 昨年は、ある大手製紙会社の社長を取り上げた新聞記事を読んで感動したため、すぐに激励の手紙を社長宛に書いて送ったところ、3日ほどするとその社長の秘書から電話が自宅に入り、社長専用車で迎えが寄越されて、社長自らが横に座って同社の森林を見学しながら会社の取り組みを説明してくれたこともあった。

 カタマタさんは普段、何をしているのかといえば、地元の小学校で森や海の大切さを小学生3~5年生に教える特別授業の先生としてボランティア活動をしている。
 本人が子供の魂を持っているからなのだと思うが、昨年の夏休みに木工教室に招待されて、その小学校を訪れたが、子供達から大変な人気があることがすぐにわかった。

 まあ、そんなカタマタさんだが、酒は一切口にしない。
 昔は大酒飲みだったそうなのだが、ある日を境に、ピタリとやめたのだという。
 原因はカタマタさんの眠りが人並みはずれて深いためだった。
 忘年会シーズンに酒をたっぷりと飲んだカタマタさんは、車で帰宅(絶対にいけないことですが、20年以上前の話なので勘弁してあげてください)していると社内の暖房と揺れのせいで眠くなってきた。信号に止まり、なかなか進まず、「参ったな」と思っていると・・・、
 車が右に左に信じられないぐらいの大きさで揺れているのだ。「地震だ」と思って周りを見ると、警官を含む5、6人の大人が社外から「起きろ~、起きろ~」「何やってるんだ~」と怒鳴りながら車を揺すっていたのだ。
 あとで警察からその時の状況を聞いたところ、渋谷の繁華街の交差点で信号待ちをしながらそのまま寝入ってしまっていたということがわかった。

 そんなことがあってカタマタさんは酒をピタリとやめたわけだが、小さい頃からよく寝る子供だったそうで、ご飯を腹一杯食べて寝てしまうと、身体を揺すろうが、耳を引っ張ろうが、鼻や頬をつまもうがまったく目を覚まさなかったらしい。
 もちろん家だけではなく、学校でも授業中に寝てしまうと声をかけても揺すっても起きないので、先生もあきらめてしまい、寝かしたままにされていたという。
 まあ、それぐらいだったらいいが、トイレに行きたい状況になっていることに自分で気づかないほど深く寝ているため、いすに座ったまま用を足してしまうことがしょっちゅうだったそうだ。
 これには、さすがに親もどこかに異常があるのではないかと心配して当時の先端医療で脳波などあらゆる検査をしてみたが、まったく問題はなく、結局原因はわからなかった。

 そのカタマタさんの話を聞いて、僕は
 「カタマタさん、人は眠っている間は向こうの世界に戻って魂をリフレッシュさせているので、寝ている間の身体は仮死状態みたいなもんです。
 その抜けている度合いが、一般の人より、カタマタさんが強烈なだけなんですよ」と言うと、

 「いや~、あなたが言うことを聞くと、このことだけに限らず、自分が胸の中で思っていることとほとんど一緒なんですよ。私はそんなことを口にすると人から頭がおかしいと思われるんじゃないかと心配して言わないできたんだけど、話せる人に会えて良かった~」
 と言い、ホホホと笑った。
 
 「僕もなるべく相手を見てこの手の話はするようにしているんですけど」という言葉が口からでかかったが、カタマタさんがうれしそうな表情で笑うのと、その直後に、
 「いやあ~、あたなが言うとおりで、私はね、夜中にちょくちょく身体から抜け出して空を飛んでるんですよ」と言われ、僕は出そうになった言葉を飲み込んでしまった。

 カタマタさんは夜、眠った後に、自分の意識が身体から抜け出して、空から見下ろすような格好で町の上をふわふわと飛びまわっていて、そのことをはっきりと覚えているのだそうだ。
 まあ、そんな冗談をいうような人ではないし、それに、今でもおつき合いしている人が、やはり夜に身体から意識が抜け出して、空を飛んで友人の家に立ち寄り、翌日、自分が見ていたその友人の行動をこと細かに話したら「おまえはあんな夜中にどこに隠れて見てたんだ~」と驚かれたという話も聞いていたので、フムフムと納得しながら話を聞かせてもらった。

 カタマタさんの風貌は、別の仕事の友人によると「キャプテン・サンタ」にそっくりとなるが、僕は白雪姫の7人のこびとにまさにうり二つだと思う。
 まあ、そんなカタマタさんが横浜の上空を両手を広げて楽しそうにクルクルと今夜も飛びまわっているのかな、と夜空を眺めながら思い浮かべると僕はいつもおかしくて仕方がなくなってしまう。

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